蒼空喫茶 広報室

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【C93】本田未央合同誌への寄稿のお知らせ

 サークル「るっくあっと未ー央ー☆」様主催の本田未央合同誌に、お話をひとつ寄稿しました。

 総勢50名以上の作家さんが、それぞれの思い描く未央ちゃんの魅力をたっぷり詰めた合同誌。未央Pの方にはもちろん、そうでない方にも、たくさんのプロデューサーさんのお手に取って頂ければと思います。

 以下は、私のお話のサンプルです。


 初めてのソロ曲をステージで披露することになった、むつみちゃんの不安と緊張をほぐすために、未央ちゃんが提案した秘策とは……?

 横書きサンプルは、続きへ掲載しています。

 よろしくお願い致します。

しぶれんど
pixiv : https://pixiv.me/shibrend
twitter : https://twitter.com/shibrend

 

 音が聞こえる。
 歌声、音楽、歓声。たくさんの楽しい音が混ざり合って、空気を強く揺らし、鼓膜を超えて、胸の奥まで響いてくる。
 楽屋とステージ、表と裏の境界線である舞台袖に立って、暗幕の向こうの景色に思いを馳せる。
 未央は、その場所が好きだった。
 その空気はいつでも、ステージの楽しさを思い出させてくれるし、本番直前の不安と緊張を吹き飛ばしてくれるし、失敗したステージを冷静に反省するための勇気をくれる。そんな舞台袖の空気に触れたくて、時々控室を抜けてはそこへ向かうのが、未央の中でちょっとした習慣になっていた。
 その日は、同じ事務所内のユニットで構成された合同ライブだった。セットリスト序盤のユニット曲とソロ曲を歌い終え、しばらく空き時間ができた未央は、ステージの上で感じた熱を失いたくないと、次の曲の資料だけ取りに戻ってから早々に舞台袖へと引き返す。

「……およっ?」
 明るい廊下を小走りで抜けた先、真っ暗な舞台袖へ足を踏み入れると、そこに先客が居ることに気付いた。誰かが居るのは珍しいことじゃない。みんなではしゃいでみたり、黙ってバックモニタに見入ったりと、仲間と一緒に舞台袖での時間を過ごすことも多い。
 ただ、その日の先客の後姿は、いつもと少し様子が違った。
 ステージから漏れる微かな光を受けて、暗闇の中できらきらと輝く衣装。いつもの三つ編みを下ろした長い黒髪が、そのきらめきの上でふわふわと揺れている。くるくるとカールした毛先の向こう、氏家むつみの表情は硬く、下唇を噛み締めながら、ステージの方をじっと睨んでいた。
 そんな様子を見た未央はくすりと悪戯っぽく微笑んで、背後からむつみにがばっと抱きついた。
「むーつみん!」
「わっ! ……み、未央さんっ。もう、びっくりしましたよ」
「ふふっ、どうしたの、こんなところで」
 大きな丸い瞳を見開き、驚いた顔を見せたむつみは、すぐにまた、暗幕の向こうへと視線を向ける。
「……ステージを、感じていたんです」
「ほう」
「その、なんだか落ち着かなくて」
 胸の前で組んだ手を、むつみはぎゅっと握りしめた。
「おかしいですよね。ステージには今まで何度も立っているし、今日のために、歌もダンスもたくさん練習したのに。いざ、この広いステージの上に、一人で立って歌うんだって思うと、その……」
「怖い、かな?」
「そうかも、しれません。今までにないくらい、緊張して、手も足も震えちゃって。えへへ……」
「別におかしくないよっ。初めてのソロステージでしょ、緊張しない方がおかしいって」
「そ、そうですよねっ」
 誤魔化すように笑うむつみの手は、たしかに震えていた。その手をじっと見つめていた未央は、ほんの少しだけ考えこんで、すぐにまた、にこりと笑う。

「よしっ、むつみん!」
「はいっ」
「歌おう!」
「……はい?」

 

(続きは本誌でお楽しみ下さい)